遺伝子組換えに対する不安はイメージから生まれたもの

FOODS NEXTインタビュー
管理栄養士
株式会社クオリア マネージャー
大脇 敦子 氏

大脇敦子さんは、乳業メーカーで産婦人科での調乳指導母親教室に携わったり、生活習慣病のクリニックでの多数の栄養指導や特定保健指導業務を行ってきました。現在は、管理栄養士の立場から食や健康に関するアドバイザーとして活躍しています。食の専門家からみた遺伝子組換え食品についての意見を伺いました。

 

「天然」は安全、「人工」は危険、は本当か?

Q お仕事のなかで食に関して、様々質問を受けられることも多いと思いますが、皆さんの食の安全に対する意識というのはどのようなものですか。
大脇 「天然成分」とか「自然」というと安心なイメージがあるのだと思うんです。反対に、「合成」や「人工」と聞くと、その言葉から科学的に作られたとか、体に害を与える良くない成分というイメージがついていると思うんですね。

Q 違うのでしょうか。
大脇 「天然イコール安心」ではない現状があります。例えばサプリメントなども天然素材は、品質が一定していなかったり、その時期によって摂取する成分が変化してしまうということがあります。スーパーなどで並んでいる食品に「無添加」とか「合成保存料・合成着色料は使用していません」と書いてあると、何だか安心しますよね。でも歴史的に見ると食品添加物がなかった時代は食中毒で亡くなる人が数百人単位でいたんです。一方、食品添加物で死亡する人はひとりもいません。企業や国の厳正な審査を経て、安全なものでなければスーパーの店頭には並びません。遺伝子組換え作物・食品も同じです。

「遺伝子組換え」の言葉から生まれるイメージ

FOODSNEXT_大脇敦子02Q 遺伝子組換え食品は、なぜ皆さんが不安に思うのでしょうか。
大脇 遺伝子を組換えているっていう言葉だけで、自然ではないものだとかクローンみたいだとか。身体にはよくない影響が出るのではないかという漠然とした不安に駆られるのだと思います。納豆などは典型的な例ですけれど、わざわざ表示に遺伝子組換えではないと書かれていたりします。これは消費者にとっては、「遺伝子組換えには気をつけて」と逆説的に言われているようなものです。食べても安全なものだという情報が圧倒的に不足していると思います。

Q 遺伝子組換え食品は食べないようにしようと心理的に思うわけですね。
大脇 「遺伝子」の「組換え」食品という言葉で何となく不安に思っている。言葉からイメージされる拒絶反応が起きているのではないかと思います。ただ、実際には遺伝子組換え作物はいろいろな食品に使われており、ほとんどの方は、すでに遺伝子組換え食品を食べているんです。

Q 遺伝子とはどういうものなのでしょうか。
大脇 遺伝子は、タンパク質を作るアミノ酸の配列を決めているものです。私たちの肌や髪もタンパク質で出来ています。20種類のアミノ酸がタンパク質を構成し、筋肉を作ったり臓器を作ったりしています。

Q 食品も遺伝子から成り立っているということになりますね。
大脇 はい、そうです。アミノ酸の配列で赤いトマトが黄色いトマトになったり、甘いトマトになったりしています。遺伝子によって自然界の食品は成り立っています。アミノ酸をどのような順番で並べるかが遺伝子の役割だといえます。

「遺伝子」が変わって新しいものができるのは従来の品種改良でも同じ

FOODSNEXT_大脇敦子03Q 遺伝子組換え食品は自然界にはないタンパク質なんじゃないか、という懸念を持つ方もいます。
大脇 例えば現在商品化されている遺伝子組換え作物の場合、土壌微生物から欲しい特性の遺伝子(たんぱく質)を取り出して組み入れています。標的となる害虫に効果を発揮する殺虫たんぱく質を作る遺伝子で、これは有機農業で、化学製品の殺虫剤の替わりに生物由来の殺虫剤としても使われているようなものです。遺伝子組換え作物からは、その既存の土壌微生物と同様のたんぱく質が作られており、全く新しいたんぱく質が作られているわけではありません。

Q では従来の品種改良とはどう違うのでしょうか。
大脇 例えばトマトは品種改良されて甘くなっていますし、スイカは品種改良されて種がないものがあります。それらがスーパーに並んでいても全く危機感を感じませんよね。でも、これら従来の交配によって出来た農作物も、遺伝子を変えることによって新しいタンパク質が作られ、甘い、種が無いなどの特性が付与された食品なんです。ただ、従来の交配による品種改良では、偶然性に頼るところが大きく不確実性があったのですが、遺伝子組換えは、あらかじめ付与したい特性に関係する遺伝子だけを入れられるので確実に狙った特性だけを付与できるのと、交配できない生物からの遺伝子導入ができるようになったので品種改良の幅が広がりました。遺伝子を変えることによって新たなものを作るという意味では、基本的には品種改良も遺伝子組換えも同じことです。

「遺伝子組換え」の安全性は確認されている

Q 遺伝子組換えの作物を害虫が食べると死んでしまう。そんな作物を人間が食べても大丈夫かという疑問についてはどうですか?
大脇 そもそも人と虫では消化管が違います。人の胃液は酸性であって、虫はアルカリ性です。害虫に作用している遺伝子組換え作物の殺虫たんぱく質(BTタンパク質)というのは、たんぱく質ですから、アルカリ性である虫の消化器官は分解できません。また虫にはBTタンパク質の受容体がありますから、その受容体にBTタンパク質がくっついて消化管が破壊されるわけです。

Q 人間にはそうしたことが起こらないわけですか。
大脇 哺乳類はBTタンパク質の受容体がなく、また、胃液は酸性なので全く人間には害がありません。普通に食べているタンパク質と同様に消化されていきます。長い間、食べ続けたとしても、重金属のように体内に溜まるということもありません。食べた後は普通の消化と同様に必要なものが身体に栄養として取り込まれます。必要がないものは便、尿、汗として排泄されます。

Q 遺伝子を組換えた食品はアレルギーを起こすのではないかと懸念もありますが、いかがでしょうか。
大脇 市場に出ているものは、導入した遺伝子由来のタンパク質がアレルギーを誘発しないか安全性を確認したもののみですので、その点は安心して良いと思います。

Q 発がん性については、どうお考えですか。
大脇 意識調査によると、食品の専門家は、がんの発生の理論や科学的根拠を知っていますので、遺伝子組換え食品により発生すると考える方は、当然ですが0%でした。一方で、一般の消費者の12%もの人が遺伝子組換え食品によって、がんになるのではないかと考えています。

「遺伝子組換え」の安全性の情報を普及させる仕組みが必要

Q ではなぜ、安全であるにも関わらず、反対や不安がなくならないのでしょうか。
大脇 一般の消費者の方の遺伝子組換えに対する懸念は、風評やイメージから引き起こされている部分が大きいと思います。消費者の皆さんが安全性を懸念しないように、もっと遺伝子組換えの安全性に関する正しい情報が普及するような環境や仕組みづくりが必要なんだと思います。

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