日本モンサント有井さんに聞いてみよう!育種のイロハと農作物の歴史

農作物はすべて人間が遺伝子を変えて作ったものだと知っていますか?

育種(いくしゅ)という言葉をご存知でしょうか。一般にはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、現在私たちが日々食している農作物はすべて野生の植物からこの育種という作業を経て人間が長い年月をかけて食べ物として適したものへと変化させ、生み出されたものです。遺伝子組換え作物についての話をしていて気付くのは、多くの方が、遺伝子組換え作物だけが、人間が意図的に遺伝子を変えて作った「人工的な食べ物」だと思っていること、普通の農作物は自然に生えているものだとイメージしていることです。農作物の歴史は育種の歴史。それはすべて、人間が食べ物として求められる性質を付与するために、遺伝子を変えて作り出してきたものだということを、今回、日本モンサント バイオ規制環境部業務調整課課長(元河内研究農場主任研究員)の有井彩の解説と共に見ていきましょう。


 有井さん、そもそも育種(いくしゅ)とはなんですか?

育種とは、生物を遺伝的に改良することで、一般的に聞き慣れた言葉の品種改良とほぼ同じ意味です。育種の歴史は長く、人類が農耕・牧畜生活を始めたときにさかのぼります。育種と農耕は切っても切れない関係のため、ここで農耕について簡単におさらいしておきましょう。

人類の祖先は数百万年もの長い間、採集、狩猟、漁労などいわゆる「在るものをとる」ことによって生計を立ててきました。新たに農耕や牧畜といった「人為的に増やす」作業が始まったのは約1万年前と言われています。農耕や牧畜が始められた理由としては食料難が一つの説としてあげられています。長い氷河期によって狩猟や採集での食料確保が困難になり、氷河期の終結に伴って生まれたとされています。

農耕の発明によって、人類は計画的に食物を生産そして貯蔵できるようになり、食料の安定供給は、人類の繁栄へと繋がりました。

狩猟や採集から農耕に移行するにあたり、古代人はまず野生に自生する穀類の種を集め、そしてまき、生えてきた植物体からまた種子をとるという作業を始めました。種の少ないものや、多いもの、味の良いものや悪いものなど様々な種類がある中、人間が単純に種まきと収穫をくりかえすことで、人間が種をとりやすい性質の個体(種が落ちにくい、種がたくさんできる、種が大きくて目立つなど)が、意図せずとも集団の中に増えていきました。そのうちに、さらに人間が好ましい性質を持つ植物体から得られた種子が意図的に選ばれるようになりました。このようにして、人間は野生の植物とは性質の異なる『農作物』を作り出してきたのです。

このように、育種は農耕が始まった1万年前から人類が無意識に生きるための手段として取り入れていた技法なのです。農耕と育種はワンセットだということがお分かりいただけましたでしょうか。


 育種と聞いてもあまり馴染みがないのですが、身近なものですか?

育種の背景を学んだので、私たちが現在口にする農産物のほぼ全てが育種による改良の結果得られたものであることがお分かりになるかと思います。育種によらない農産物を強いて挙げるならば、量や時期に限りのある野山に生える山菜が、人間が手を加えていない「ありのまま」な食べ物といえるでしょう。ただ、野生のものは自然界で生き残るために毒をもっていたり、必ずしも食料としては向いていないことが多いので、安全に食べるためには野生の植物に関する正しい知識が必要です。

農耕を開始して以来、人類は「もっと安全におなかいっぱい食べられるように」と収量を高くすることを主な目標としてきました。現在では、生活が豊かになってきたために、収量を中心に発展してきた育種の技術は、より美味しいもの、見た目の良いものへの追求へと移りつつあります。スーパーマーケットに行けば、昔に比べると格段に野菜や果物の種類が増えたのがわかると思います。昔から店頭に並んでいる野菜や果物であっても、見た目も中身も昔のままではありません。「おいしくて、いろいろな種類をたくさん収穫できるように」と、工夫と努力を重ねて改良してきたのです。現代私たちが口にしている食物のほとんどすべてのものが、何らかのかたちで育種の恩恵を受けているのです。

① 品種改良の例
トマトの原種はおいしくない上に、有害物質(アルカロイド等)を含むものでしたが、「人工交配」により品種改良を繰り返して遺伝子構成を変え、今の美味しくて有害物質の少ないトマトになりました。

コメはもともと熱帯由来のイネですが、長年の育種により、亜寒帯である北海道でも安定して収穫でき、かつ大変においしい品種が開発されました。明治維新以降の北海道開拓時代には、北海道は稲作には不適として稲作禁止令が出されるほどでしたから、北海道でおいしいコメを食べたいという人々の情熱と努力の結晶といえるでしょう。

② 品種改良の最新
ジャガイモの芽はステロイドグリコアルカロイドと呼ばれる毒をもっていて食中毒の原因となりますが、遺伝子編集という育種の最新技術を用いて、ステロイドグリコアルカロイドを作らず、芽が毒を持たないジャガイモが開発されています。

世界から育種がなかったら人類はこれほどまでに繁栄していなかったといっても過言ではないですね。


 モンサントの育種の取り組みを教えてください。

育種の技術も進化を遂げています。1900年にメンデルの法則が再発見され、遺伝子が親から子へと性質を伝えているものであることが理解されました。これ以降、育種は偶然に見つかった良いものを選ぶのではなく、どういった改良を加えるか、予め目標を立てて計画的に行うものへと大きく進歩しました。一般的に育種の目標としては、環境に対する適応、耐病性や耐虫性、収量増や品質向上、作業・管理上の改良が挙げられます。そんな中、育種にも様々手法が開発され、その中には近代育種法のひとつである遺伝子組換え技術やDNAマーカー選抜もあります。いずれも、人間が農作物として求められる上記のような性質を得るため、遺伝子を意図的に変えて新しいものを作るという点は共通しています。下記が代表的な育種法の種類です。モンサントもこれらの育種法を使って研究開発を行っています。

  • 導入育種法
  • 分離育種法
  • 交雑育種法
  • 雑種強勢育種法
  • 突然変異育種法
  • 倍数性育種法
  • 遺伝子組換え(遺伝子導入)法
  • DNAマーカー選抜

 

農業関連企業は目的に合わせた育種法を取り入れて、生産性を高めるため、また人類が持続可能な農業を行えるよう日々切磋琢磨しています。さらなる人口増加や食料の需要増に対応すべく、品種改良の技法の一つである遺伝子組換え法を用いた遺伝子組換え作物が商品化されてから20年以上が経ちました。この20年間で、遺伝子組換え技術も含め、様々な育種法を駆使することにより、世界でのトウモロコシの収量は20年前(1996年)の1ヘクタールあたり4.2トンから、現在の1ヘクタールあたり5.6トンへと増加しました。

モンサントは遺伝子組換えしかやっていないと誤解されることもありますが、遺伝子組換え技術でしか達成できないことがある場合のみこの技術を利用しています。遺伝子組換え技術以外の育種により、そもそもの土台となる品種をより良いものに改良してきてこそ、この20年間での収量面における格段の進歩が達成されたのです。これは人類が農耕を開始してから1万年の地道な育種による成果であり、また、育種の重要性は今後も永遠に続いていくのです。
データ: FAOSTATより算出

 

有井彩 (ありい あや)
1999年入社。バイオテクノロジー部主任研究員として河内研究農場にてトウモロコシ・ダイズの研究開発を担当。2004年よりモンサント・カンパニーが開発した遺伝子組換え作物を日本国内の関係省庁に申請登録する業務に携わるバイオ規制・環境部に異動、油糧作物担当課長を経てを現在に至る。二児の母で趣味は子供たちとゲームで遊ぶこと。

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