医療、洗剤、食べ物~日本人の生活の身近にある遺伝子組換え技術    “他者理解”に基づく科学コミュニケーションで正確な理解を

特定非営利活動法人くらしとバイオプラザ21常務理事 佐々義子氏

 モンサントの製品の1つに、バイオテクノロジー、いわゆる遺伝子組換え技術があります。モンサントが取り組んでいるのは、この技術を利用した作物の開発ですが、実は作物などの食に限らず、私たちの生活に関係する様々な分野で遺伝子組換え技術が利用されています。

 こうした遺伝子組換えに関する情報は、企業や研究所、国・地方自治体など、様々な立場から提供されていますが、必ずしも正確に伝わっていない、そもそも理解されていない、という現状もあります。

 遺伝子組換え技術をはじめとするバイオテクノロジーの正しい理解のため、科学的情報の発信やコミュニケーション活動に取り組む特定非営利活動法人「くらしとバイオプラザ21」の常任理事である佐々義子氏にお話をうかがいました。

医薬品や洗剤、身の回りに広く存在する遺伝子組換え技術

―遺伝子組換え技術は農業に限らず、さまざまな分野で利用されていますが、私たちに身近な分野では、どのようなものがあるのでしょうか。

 まず代表的なものは医薬品でしょう。研究分野はもちろん、糖尿病患者に不可欠な「インスリン」、「インターフェロン」には遺伝子組換え技術が欠かせません。

 かつては人体からしか得られなかったものが、遺伝子を組み換えた酵母などから生産することが可能になり、現在のようにさまざまな医薬品が安価で広く利用できるようになりました。私たちが目にすることはあまりありませんが、医薬品の医療従事者向け添付書類では、遺伝子組換え技術利用の有無が明記されています。

 遺伝子を組み換えた微生物から生産されるものに、家庭用洗剤などに使われる「酵素」があります。酵素の働きはさまざまですが、例えば洗濯洗剤の場合、落ちにくい皮脂や皮膚の破片などのたんぱく質汚れを落とすために「たんぱく質分解酵素」が配合されています。こうした酵素は、すでに数百も実用化されており、一般的に利用されています。けれど、酵素に遺伝子組換え表示義務はないので、洗剤に表示はされていません。

―スギ花粉症治療米など、農業と医療を遺伝子組換え技術によってつなぐ研究もおこなわれています。

 近年は遺伝子組換え植物を使った医薬品の研究開発が始まっています。例えば、2013年に産業技術総合研究所とホクサン、北里第一三共ワクチンが共同開発したイヌ用の歯肉炎軽減剤「インターベリーα」は、遺伝子組換えイチゴで生産されたインターフェロンを使用しています。

 遺伝子組換え植物を原材料とした医薬品の承認は世界初で、非常に画期的なことでした。ペット用の医薬品ですが、日本国内の犬猫飼育数は15歳未満の子どもの数よりも多くなっており、販売数も順調に伸びているそうです。

 人が使用するものでは、今年、東京大学医科学研究所とアステラス製薬によって共同研究が行われている「ムコライス」が挙げられます。ムコライスは、遺伝子を組み換えることによって、対コレラなどのワクチンを含ませたコメで、経口摂取が可能です。ただし、食品として炊いてお茶碗で食べるのではなく、米粒を粉末にして水に溶いて飲むという形で摂取します。

 コメは長期常温保存ができるため、医薬品を低温で保存することが難しく、衛生的な注射器を十分に用意できない環境でも利用でき、発展途上国の公衆衛生向上に貢献するのではないでしょうか。

2.Shopping

―遺伝子組換え作物は、食品分野ではどの程度利用されているのでしょうか。

 食品への遺伝子組換え作物(以下GMO表記)の利用は幅広く進んでいます。もしもすべてのGMOを排除すれば、お店の棚から多くの食品が消えてしまうでしょう。

 まず、肉類や乳製品製造のための家畜の飼料として利用されていますし、トウモロコシやダイズを原料とする油にも欠かせません。油そのものだけでなく、油を使うドレッシングなどの調味料もあります。さらに、清涼飲料などに使用されているトウモロコシからつくる甘味成分、菓子類のコーンスターチ、アイスクリーム類の乳化剤、加工食品などに添加されているたんぱく質抽出物など、GMOが使われるレパートリーは今も広がりつつあります。

 利用が広がっている背景には、GMOを使用することで安定供給につながる、という理由があります。食品の安定供給が当たり前の状態では、なかなかその素晴らしさを理解できませんが、東日本大震災の際に、流通が停止したことでお店の棚から食品が消える場面を私たちは初めて体験しました。そして、こうした危機が身近に潜んでいることに気づいた人も少なくなかったと思います。

 また、消費者にとっては、比較的安価な食品が用意されていると助かることも事実です。遺伝子組換えではない作物を原料に使っている食品も販売されていますが、大手流通によると、GMOを使用しているからという理由で売上げが低下することはないようです。むしろGMOを原料とした食品は価格が安く、より売れているそうです。

 このように、需要と供給という視点からみると、食品分野の遺伝子組換え技術は広く受け入れられているようにみえます。しかし、命に関わる医療と違い、「食品は選べるなら選びたい」という消費者が少なくないことも事実です。

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