ジャーナリスト安倍宏行氏に聞く、ソーシャルメディア時代に必要な情報リテラシー

インターネットやソーシャルメディアの普及により、現在のメディアには玉石混交の情報が溢れるようになりました。最近は一部に大手マスコミについての批判もあることから、時として何を信じてよいのか分からなくなることがあるのではないでしょうか。モンサントについても、書籍や映画、またインターネットやソーシャルメディアで様々なことが語られており、「大手マスコミが報じない本当の真実」という形で、正確な根拠に基づかない情報やミスリードされている情報が数多く存在します。

このような状況において、情報を受け取る側と発信する側は、それぞれどう対応するべきなのでしょうか。長年フジテレビで記者として現場に立ち、解説委員を務めた後、2013年10月からインターネットメディア「ジャパン・インデプス(Japan In-depth=JID)」の編集長を務める安倍宏行氏(60)に、マスメディアとネットメディア、双方の最前線を知るからこそ思う、現代の情報との向き合い方について聞きました。

事象の原因や影響も含めて伝えられるのはインターネットメディア

―JID立ち上げまでの経緯をお聞かせください。

ネットメディアが発達するだろうという見通しをフジテレビにいた頃から持っていて、自分でネットメディアを立ち上げようと、2010年頃から構想を温めていました。ずっと記者を続けたいと思っていたところ、2013年7月に異動で記者職を離れたのがきっかけで、その年の9月にフジテレビを辞め、直後の10月にJIDをスタートさせました。

ネットを選んだのは、特に地上波でのテレビジャーナリズムの限界を感じていたからです。視聴率や放送法、時間の制約もあり、中身より見せ方に力点を置いてしまいます。「ニュースJAPAN」でも喋れるのは1回30~50秒でしたが、一人が話しているのをこれだけの時間聞くのは視聴者にとっては相当苦痛です。テレビは瞬間芸ですが、それでは言い尽くせないものがあります。

―テレビにいた頃と発信者として意識の違いはありますか?

もちろんあります。ネットの方がスピード感があり、自分でネタを選べますし、マスコミがやらないことも取り上げられます。

たとえば原発の問題。僕は安全対策がどうなってるのかを知るため、2012年に現地へ見に行きました。話を聞き、写真も撮りました。何千億円のお金をかけて安全対策をやっていますが、それでも一部からは「足りない」と言われています。一方で電気料金は上がっており、中小企業はたまりません。大田区の小さな会社経営者からは「電気代が700万円から900万円に上がってしまった。人を雇えず、辞めてもらった」と聞きました。廃業にしたという話もありました。

これは一例ですが、本来、事象の原因や影響も含めてきちんと報道しなければいけないのに、それが果たされていない実態は色々な分野であります。世の中には我々が知らなければいけなくて、しかも知れば社会が大きく変わる可能性があることが山ほどあります。そういう知識を広められるのは、基本的にフリーハンドで報道できるインターネットメディアだと思います。

どれだけ情報があふれても、思考停止してはいけない

―多様な情報が存在するインターネットですが、特にソーシャルメディアではネガティブな情報ばかりが広がる状況もあります。その背景には何があると思いますか?

SNSには両面あります。誰もが情報発信でき、「何百万人が自分の書いたものを読んでくれている」という高揚感、自己実現感が、簡単に感じられるようになりました。「アラブの春」という革命まで起きました。そのすべてがSNSのおかげとは限りませんが、「SNSってすごいんだな」という期待感が湧き起こりました。

反面、「SNSってどうでもいい情報ばかりだよね」という見方も出てきました。デジタルネイティブとされる若者の間でも「ネットの情報は信用しない」という声があります。そして「結局、一番信頼できるのはテレビ、新聞、ラジオだ」という揺り戻しも一部で起きています。

ただ、SNSにはデマを即座に打ち消すスピード感も同時にあります。良い情報は拡散されますし、ネガティブな情報が出たら、打ち消す情報をどんどん出していけばいいと思います。

―情報の受け手は、そうした色々な側面からの情報を受けた上で真偽を判断すべき、ということでしょうか?

そうですね。むやみに拒絶したり信じ込んだりして、思考停止状態に陥ってはいけません。別の角度からの情報を知っただけで考え方は変わります。自分に都合のいい情報だけネットメディアから選り好みして信じ込む人もいますが、そこはSNSが補完してくれます。自分と違う見方の人がシェアしてくれた情報に触れることで、考えが変わる可能性が生まれたのです。

―信頼性は、何を基準に考えればいいのでしょうか?

情報の信頼度で言うと、無名ユーザーが発信した情報でも、例えば土木・建築関係者を名乗る人が専門家のように詳細な発言をしたとして、それを影響力ある専門家や識者が引用してシェアした場合、「それなりに信頼できる情報だろう」というひとつの保証になります。しっかりとした多くの言論人が、普通にSNSで発信し始めていますよね。

あとは日本人のリテラシーに期待するしかないでしょう。「メディアリテラシー」という言葉がありますが、今はそれが普及していく過渡期だと思います。世界最大級のSNSであるFacebookが2004年に生まれて、2016年で12年。SNSは、「成熟」とまで言いませんが「フェイズ2」に来ていると思います。

Twitterを見ても、酷い誹謗中傷は減っていると個人的には感じています。ネット掲示板のまとめサイトや、Togetter(Twitterの投稿をテーマ別にまとめたサイト)などの登場で、あまりおかしな発言をするとずっと残って拡散されるじゃないですか。それがひとつの抑止力として働いているのではないでしょうか。信頼できない情報は駆逐されるという、ネット上のエコシステムができつつあるなという気がします。

はじめの発信だけでなく、それに対する反応まで含めて、全体として情報を捉えるのも必要だと思います。「Aという記事にBという人がこうコメントしているが、それを踏まえて私はこう思う」と自分から発信するということです。日常的にネットニュースを色々なサイトで見る人は、おそらくそういう情報術を身につけており、それをもって「リテラシー」と呼ぶのだと思います。

「情報を見なくなってしまう」のは危険

―ネットを使いこなしている人ばかりではありません。冷静な判断をするには、何を意識すべきでしょうか。

「何でもかんでも鵜呑みにしない」ことでしょう。まず疑い、立ち止まる。リツイートやシェアをする前にちょっと考える。そこで「ん?」と引っかかったら、反対の意見があるかなと自分で調べ、両方の意見を見てみることです。たとえば、災害の時に悪質なデマを流す人もいますが、よく見たら投稿内容と、既出の客観的な事実とが一致しなくて、おかしいと気付ける場合もあります。

怖いのは、逆に「情報を見なくなってしまう」ことです。あふれすぎて何を信じていいか分からないから、面倒臭くて遮断してしまう人がいます。これも思考停止であり、とても危険です。情報に触れないと物事を考えなくなり、自分の殻の中に閉じこもってしまいます。情報の洪水を恐れるあまり、自ら情報の淵に立つことを避けるのは、人生において物凄いリスクです。人間は社会的な動物であり、色々な情報を得ながら前に進んでいくものです。たとえば、麻疹(はしか)がどこそこで流行っているとか、ある国でテロの危険性がアナウンスされているとか、そういう情報を何も知らずにいると命に関わりますよね。

「情報から逃げるな」と伝えたいですね。我々は情報の洪水の中で生きており、それに立ち向かう勇気を持たなければなりません。洪水の中で泳ぐ術を身に着けてこそ、人生の目的地にたどり着けるのではないかと思います。泳ごうとしない人は溺れますし、近寄らないから大丈夫と思っている人でも、とてつもない洪水が突然襲ってきて、飲み込まれるかもしれません。

 企業の情報発信の方式も変化する

―日本モンサントでは「モンサントジャーナル」を立ち上げました。今後、企業の情報発信や広報のあり方も、変わっていかなければならないのでしょうか?

これまでの企業広報は、取材を受けて記事にしてもらうとか、お金を出して広告宣伝するというやり方でしたが、SNSの普及もあり、それだけでは不十分になってきました。そこで各社、オウンドメディア(自社所有メディア)を立ち上げるのですが、なかなか読まれないのが現状です。企業側もフラストレーションがものすごくあると思います。

一般の人が想像しないような側面から話すと、読者は「そういう見方もあるのか」と思うはずです。その発信を手伝えるのは、我々のような企業外のメディアの人間です。1つのコンテンツに「あれもこれも入れよう」と詰め込むと、何万字にもなって一般読者はなかなか読んでくれません。

発信するにしても、企業サイトからいくつも飛んでいってようやく記事が見られるという構造だと、その会社によほど興味がある人でないとそもそもページを開いてくれません。企業は、情報を少しずつ切り出し、拡散されやすいサイトを作らないといけません。

―コンテンツの見せ方がより大事ということでしょうか?

もちろんまずは内容が大事です。たとえば、モンサントが扱っている遺伝子組換えやバイオテクノロジーといった科学の話は、読者には分かりづらい。正確な知識を持っていて情報を冷静に判断できる人は限られています。だから、センセーショナルな批判がネット上で叫ばれると、多くの人は検証できずに鵜呑みにしてしまう。それがまさに「情報の洪水に飲み込まれる」ということだと思うんですね。モンサントが批判へのカウンターとして、「遺伝子組換え作物」を教科書的に説明しても、難しくてなかなか興味を持たれない。

例えば、農業関係会社の社長と農業ジャーナリストとの対談だと堅苦しい。でも、「社長自ら現場に出て綿花を摘んでいる」という内容だと、面白くなるかもしれない。そうやって興味を引いた記事の中で、企業が伝えたい情報を少しずつ切り出してやればいい。

―客観的な企業情報を、外からの視点を入れて、求められる形で伝えていく。これが重要だと。

そうだと思います。説明が伝わりさえすれば論理的に判断できる読者が大半です。モンサントは科学的に正しい情報を持っているのですから、読者の興味を引く形で発信するといった「見せ方」次第で、もっと情報が広まるはずです。そのためには、内外の人々の視点を取り入れて発信するのが有効でしょう。

私の経験の話ですが、農業についてのディスカッションでモデレーター(司会)をやったことがあります。生産方法について多様な考え方を持つ専門家、地元農家、学生もパネラーにいました。まぁ議論は平行線でしたが、いくつもの視点で切り合うわけですから白熱します。私自身、とても面白いイベントでしたし、参加者も「フードチェーンとは何なのか」といった農業問題を考えるきっかけになったでしょう。イベントに参加できる人は限られていますから、その模様を後日、客観的に記事として発信すれば何倍もの人に伝わります。そういうコンテンツの作り方もありでしょう。

多くの企業は自分たちの出したい情報だけを発表しています。しかし、企業内部の人だけでは、自分たちが持つ情報のどこにどういう面白さがあるか、気付きづらいと思うんです。

一方、モンサントは情報公開にオープンなスタンスですよね。読者が求めるものを発信しようという態勢をとっています。外からの視点を取り入れつつ、オウンドメディアで独自の情報を体系的に伝えようとしている。その点で「モンサント・ジャーナル」は良い方向性を持っていると思いますよ。今後のコンテンツに期待したいですね。

 


安倍宏行氏プロフィール
東京都出身。日産自動車を経て、1992年フジテレビ入社。報道局政治経済部記者、ニューヨーク支局長、ニュースジャパンキャスター、経済部長、BSフジプライムニュース解説キャスター等を歴任。現在、オンラインメディア Japan In-Depth 編集長。広報・危機管理コンサルタントも務める。

NEXT MEDIA “Japan In-depth” ジャパン・インデプス
http://japan-indepth.jp/

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