なぜ農業に先端技術が必要なのか――米国「精密農業」の現場から(2)

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「農業にテクノロジーは無縁」と思われがちですが、遺伝子組換え作物や化学農薬だけにとどまらず、農業にはさまざまな先端技術が導入され、多くの生産者たちによって利用されています。こうした先端技術はなぜ必要で、生産者たちはどう考えているのでしょうか。

農業は膨大なデータ産業 農業資源をより効率的に利用する

さまざまな先端技術の中でも、近年モンサントが注目しているのが、農業における「ビッグデータ」の存在です。種を蒔き、成長させ、収穫するという過程は単純なように思えるかもしれませんが、そこには土壌の栄養成分や微生物叢、作物の健康、病気、害虫、成長状態、天候など膨大なデータが複合的に存在しています。

生産者は、これらの膨大なデータをもとに、植える作物や品種、作付け時期、耕作の仕方、作付け率、農薬、肥料の使用量など40項目以上の重要な決定を下さなければいけません。ひとつの判断を誤れば収穫量の減少を招きかねず、生産者にとって農作業はもちろん、データの観測と分析も大切な仕事の一部なのです。

そこで、モンサントは農業データを収集、分析する管理システム「Climate Fieldview」を生産者に提案することにしました。気象データや衛星写真、農業機械を通して得られるデータを分析し、さまざまな技術を利用する最適な場所やタイミングを提案するアプリケーションがあれば、さらに効率的な精密農業も実現できると考えたためです。

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これまではデータの分析は生産者の経験に基ずく勘だけが頼りでしたが、「Climate Fieldview」を使うことで、より的確な意思決定が可能となります。

例えば、気象データからどの畑にどの程度の雨が降ったか、というデータを得ると、雨によって畑の窒素がどの程度流出してしまい、今現在どれだけ不足しているのかという予測値を提供します。

実際に計測した数値ではありませんが、生産者はこの数値をより正確な施肥、つまり予定している収量を達成するために、どの程度肥料を追加すればよいかの判断材料にすることができます。

こうしたデータサイエンスの導入は、すでに米国の農業の現場で実際に進んでいます。一見、農業とテクノロジーという相反するイメージを持つ二つが融合し、「Climate Fieldview」などの精密農業を取り入れることによって、より明るい農業の未来が見え始めています。

2400ヘクタールの畑を3人で 先端技術で管理する農業の現場

イリノイ州で作付面積6000エーカー(約2400ヘクタール)の畑をもつロイ・ウェンテさんは、4代続く農家であり、主にトウモロコシと大豆を栽培しています。広大な畑ですが、ウェンテさんの元で農作業に従事しているのはわずか3人です。

この5年間、作物の収穫量は高い数値で安定しており、2015年の総売り上げは約350万ドル(約3億5000万円)に達しました。

莫大な額に思えますが、「農業を営むためには種や肥料、農薬が必要ですし、人件費に加え、農業機械の維持費だけでも年間100万ドルはかかります。畑が広いほどこれらのコストは上昇するので、売り上げと同程度の出費が毎年発生しているのです」と、ウェンテさんは話します。

こうしたコストを少しでも抑えるために、ウェンテさんは積極的に先端技術を導入し、生産性の高い、高効率な精密農業に取り組んでいます。

早い段階から導入したのは、根を枯らしてしまう害虫への抵抗性を持つ遺伝子組換えトウモロコシで、これによって平均収穫量は単位面積当たり0.5~0.6トン増加しました。

「今は、農業用生物製剤が有用か判断するため、モンサント社の『QuickRoots』という製品をテスト利用しています。この製品で種をコーティングすると、通常よりも根の成長が促進され、土壌中の養分を効率的に吸収できるというもので、実際に収穫量が増加したら導入するつもりです」(ウェンテさん)

さらに、遺伝子組換え作物や農業用生物製剤といった先端技術をデータに基づき必要に応じて効果的に導入し、その効果を検証するため、「Climate Fieldview」も2014年から利用しています。

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畑のデータは農業機械に取り付けた小型のドライブを通して自動的に収集され、オフィスのパソコンはもちろん、iPadやiPhone上からでも確認することができます。

当初はこうしたデータや分析結果をあまり信用していなかったそうですが、ウェンテさんが自分で時間と労力をかけよくチェックしていた畑の計測結果と、「Climate Fieldview」が提供するデータ分析結果に大きな差はなく、今では広大な農地を効率的に管理するのに不可欠なものになりました。

「Climate Fieldviewの結果がすべてとは思いませんが、判断材料のひとつになります。例えば、Climate Fieldviewの窒素量のデータを参考に、自分で畑に向かい土壌サンプリングを併せて実施して判断ができるでしょう」

先端技術の導入にもコストは発生しますが、結果的に収穫量が増加するなら、今後も取り入れていきたいとウェンテさんは考えています。

「収穫量が上がり、収益が得られなければ農業を続けることができません。安定した農業を次の世代に引き継ぐためにも、私は技術の可能性を信じています」

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