「食べ物とゲノムの秘密」<第一回:食料供給と品種改良の役割>

私たちが毎日、色々なおいしい食事を食べられるのは、品種改良のおかげだと聞いてもピンとこない方がほとんどでしょう?

普段当たり前に食べている穀物・野菜・果物は、ほとんどすべて人間が手を加えてきたものです。その元である原種、あるいは野生種といわれるものは、現在のものとは見た目も味も大きく異なります。野生種や原種は硬くて食べられないものや、中には毒のあるものもありました。それを人間が手を加えて、食べやすく変えてきました。つまり品種改良によって現在食料として供給される穀物・野菜・果物が作られてきたのです。

ここでは、この食料供給と品種改良の切っても切れない関係を「食べ物とゲノムの秘密」として3回シリーズでご紹介します。食料供給における品種改良の役割を知り、どのような技術があり、どのように発展してきたのか、について考えていきます。すると、そこには、遺伝子(ゲノム)の関わりが見えてきます。

第1回は「食料供給と品種改良の役割」、2回目は「品種改良の技術」、3回目は「品種改良の歴史」について取り上げます。各回の最後には、ゲノムクイズを掲載しています。全て解ければあなたもゲノムマイスターです!

<第一回:食料供給と品種改良の役割>

1万2000年前に農業が始まった。そして品種改良も始まった

私たちの祖先が最初に農業を始めたのはいつ頃のことだったのでしょうか?
現在のエジプトやイスラエル、トルコとイラクにまたがる「肥沃な三日月地帯」に住んでいた人たちが、自然の中から食べものを採集する代わりに穀物を植え始めたのが今から約1万から1万2000年前です。

それまで人間は、野生動物や自然に実っている穀物などを求めて常に移動する生活を送っていましたが、農耕が始まると、ひとつの場所でまとまった量の食料が入手できるようになります。これにより一か所に定住を始めると、人口は急激に増加し始めます。農耕の開始は、人口増加と食料の安定供給という課題の始まりでもあったのです。

農耕の始まりにより、これまで山野に自生していた野生の植物「野生種」を徐々に栽培に向いた「栽培種」に変えていくことになります。

 

食料供給を目的として品種改良が発展

農耕をするなかで、より多くの収穫を上げるためには、栽培がしやすく、食糧に向く作物を作ることが重要です。そのために、収穫時に病気になりにくい作物や粒の大きさな作物、食べやすい作物などを選び、その種子を次のシーズンに栽培する、また次のシーズンもよりよい種子を選んでそれを増やすということを繰り返してきました。

20世紀に入るまで、品種改良はもっぱら、こうした種子の選抜によってのみ行われてきました。 (1*)その後、1900年に「メンデルの法則」が再発見されることで、品種改良は“経験と勘を頼りにした選択”という行為から“科学的な技術”へと発展していくことになります。

 

品種改良技術の発展が安定的な食料生産に貢献した

 

20 世紀は人口爆発の時代でした。1900 年に約16 億人だった世界人口は2000 年には約60 億人にまで増えました。こうした人口増加を支えられたのは、科学的に品種改良が進み、単位面積あたりの収量が増えたことが大きく貢献しています。

今後の安定した食料供給に向けて様々な課題がある

20世紀には、穀物の単位面積当たりの収穫量を高めて急激な人口増加を支えてきましたが、今後迎える未来はどうでしょうか?

ここからは食料供給を維持するうえで抱える様々な課題について具体的に見ていきます。

増え続ける人口と食生活の変化

第一の問題は、今後予想される人口の大幅な増加です。2018年時点での世界の人口は約76億人。国連の世界人口推計によれば、世界の人口は、2050年には98億人に達する(約30%増)といわれています。

さらに、2050年に世界で必要とされる食料生産は、全体で2000年時点の1.6倍にも達する見通しです。(2*)人口増加の比率よりも多いと推測されています。これは、食肉の消費増加による動物たんぱく質の摂取が増加することが大きな影響を及ぼしています。

一人分の食料生産を支える耕地は減少していく

一方、作物を育てるための農地は劇的に増えることはないため、2050年と1961年で一人分の食料生産に使うことができる耕地面積を比べると、世界全体で約3分の1に減少することが予想されています。(3*)単純に計算して単位面積あたりの収量を3倍にする必要があります。

 

気候変動による栽培環境の悪化が懸念されます

さらに、温室効果ガスによる地球温暖化など、気候変動による影響も見過ごすことはできません。温暖化が進むと穀物の収量増加にブレーキがかかるとの予測を発表している研究データが様々あります。

たとえば、トウモロコシとダイズに関しては、産業革命以前から2100年までの気温上昇が1.8℃未満にとどまったとしても、収量の増加ペースは鈍っていくと予測されています。さらに気温の上昇が3.2℃を超えると、トウモロコシやダイズほど気温上昇の影響を受けない米と小麦についても、収量の増加が停滞し始めるとみられています。(4*)

限られた水資源で作物の栽培は影響を受ける

また、作物の栽培において水の存在はかかせません。河川や湖沼、地下水などから汲み上げられた淡水の70%は農業に使われているというデータが示す通り、地球上の多くの水が農業に使用されていることになります。(5*)けれども、使える水資源は限られています。

 

品種改良は食料供給の課題解決に貢献する

人類が今後安定的な食料供給を続けるためには、限られた耕作地や水資源のなかで、将来にわたって続く気候変動に対応しながら、単位面積当たりの収量を増やす選択肢が求められます。

単位あたりの収量向上のためには、品種改良が大きく貢献します。

次回は、安定した食料需要を支える鍵となる「品種改良の技術」について、どのような技術があるのか詳しくみていくことにしましょう。

資料:
1) 鵜飼保雄・大澤良「品種改良の世界史・作物編」
2) 農林水産省「2050年における世界の食料需給の見通し」
3) The World Bank, Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO-STAT), Monsanto Internal Calculations
4) 農研機構「(研究成果)温暖化の進行で世界の穀物収量の伸びは鈍化する」
5) ICHARM「第3次 世界水発展報告書(WWDR3)」(日本語要訳版)

 

【ゲノムクイズ】

1問: 20世紀に食料供給の増産をもたらしたきっかけは、「穀物の耕作地拡大」「単位面積あたり収量増加」のうち、どちらでしょう?

2問: 1900年に再発見された、品種改良が科学的に発展するきっかけとなった法則といえば、「何の法則」でしょう?

3問: 人口が98億人にせまるとされる2050年。1人分の食料に使える世界の耕作地は、1961年と比較してどれくらいの面積になると予測されているでしょう?

(ア)2分の1、(イ)3分の1、(ウ)3倍

答えはこちら

クイズ監修:クイズ作家 古川洋平氏(ふるかわ ようへい)
1983年宮城県生まれ。仙台一高クイズ研究部時代の2000年『パネルクイズアタック25』の高校生大会で優勝。翌2001年には『タイムショック21』高校生大会にも優勝し、高校生でクイズ番組2冠を成し遂げた。その後、立命館大学クイズ研究会に所属。学生日本一決定戦『abc』3連覇、社会人日本一決定戦『ABC』2度優勝などの成績を収める。2014年より「クイズ法人 カプリティオ」代表を務め、クイズ作家として活躍している。映画『ドラえもん のび太の宝島』問題監修および出演、TV番組 TBS『水曜日のダウンタウン』、NHK『マサカメTV』、テレビ東京『乃木坂って、どこ?』など出演多数。

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