「食べ物とゲノムの秘密」<第三回:品種改良の歴史>

普段当たり前に食べている穀物・野菜・果物は、すべて人間が野生種や原種に手を加えることでできたものです。現在食べている農産物に人間が手を加えていないものはありません。それを品種改良といいます。

食料供給における品種改良の役割を知り、どのような技術があり、どのように発展してきたのか?について考えていくと、そこには、食べ物と遺伝子(ゲノム)の関係が見えてきます。第1回目は「食料供給と品種改良の役割」、2回目は「品種改良の技術」について見てきました。最終回である3回目は「品種改良の歴史」です。1万2000年以上前に始まったと考えられている品種改良、その長い歴史のエポックメイキングとなる出来事をご紹介します。最後にゲノムクイズを掲載しています。全て解ければあなたもゲノムマイスターです!

 

第二回の答えは次の通りでした。

【第二回ゲノムクイズの答え】

答え1: (ウ)
答え2: (ア)
答え3: 「交雑育種」、「突然変異育種」、「ゲノム編集」、「遺伝子組換え」のすべて

 

<第三回:品種改良の歴史>

品種改良の歴史は太古から始まっていた

人類の農耕はいつごろから始まったのでしょうか?
狩猟採集の生活から、定住して植物を栽培する農耕生活に入った時期は、旧石器時代の今からおよそ1万2000年前とされています。

それまで山野に自生していた野生の植物「野生種」を徐々に人間によって栽培される「栽培種」に変えていくことになります。野生種は栽培という行為が始められただけで、おのずと栽培に適した植物へと変化していきました。

このようにして人類は植物を栽培に適したかたちに変化させていきました。この人類の農耕の始まりが品種改良の始まりとも言えるのです。(1*)

 

メンデルの法則の再発見以降、品種改良技術が発展した

・「メンデルの法則の再発見」
1865年、グレゴール・ヨハン・メンデルはエンドウマメの交配実験から、親の持つ特徴(形質)が規則性を持って子孫に伝わることを発見しました。その後メンデルは1884 年に「今に私の時代がきっと来る」という言葉を残して亡くなりました。ド・フリース、チェルマク、コレンスの3人らによってメンデルの法則が再発見されたのは 1900 年になってからです。「メンデルの法則」の発見とその後の再発見は、1万2000年以上前に始まった品種改良の技術を大きく発展させる契機となりました。

・「交雑育種の発展」
交配できる品種同士を人為的にかけ合わせる交雑によって、より良いものを選び出すことで品種改良の効率は飛躍的に向上しました。
交雑育種は品種改良の基盤となる技術です。

・「F1雑種強勢育種」
異なる品種間の雑種(F1)が、収量や草丈、茎葉の大きさや重さ、病虫害抵抗性、成長速度などに関して、両親に比べ優れた性質になることを「雑種強勢」といいます。雑種強勢そのものはすでに多くの研究者が確認していましたが、品種改良への利用が始まったのは、メンデルの遺伝法則の再発見以降のことでした。

・「突然変異育種のはじまり」
1920年代のアメリカで、X線照射による突然変異の誘発が相次いで成功しました。1927年にショウジョウバエでの実験を行ったスタッドラーは、「放射線は悪影響のみで育種には役立たない」と主張しましたが、翌1928年にトウモロコシとオオムギで実験を成功させたミューラーは、「自分の発見は植物の品種改良に貢献するだろう」と考えていました。(3*)

両派の間で長い間論争が続きましたが、ミューラーの考えを支持する北欧の研究者たちがオオムギで新品種を次々に育成し、1940年代には人為突然変異が作物の品種改良に役立つとする多くの研究成果をまとめた論文も発表されました。(3*)

 

DNAの構造解明が品種改良の技術をさらに発展させた。

・「DNA構造の解明」
1953年、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって、DNAの二重らせんモデルが提唱されました。

これによってDNAの塩基配列が遺伝情報を担う物質(遺伝子)であることを説明できるようになり、その後の分子生物学の発展をベースにした遺伝子組換えやゲノム編集の技術にも大きな影響をもたらすこととなります。

・「緑の革命」
イネやコムギなどの高収量品種の開発や化学肥料の使用などで穀物収穫量を飛躍的に増大させた農業技術の革新は「緑の革命」と呼ばれています。
第二次世界大戦後の世界における人口増加は爆発的で、アジアを中心に深刻な食料危機を招きました。しかし、交雑による品種改良の成果は特にイネとコムギにおいて目覚ましく、
生産量の画期的増加によって1,000万人もの人々が餓死から救われたと推定されています。

・「遺伝子組換え作物の流通」
交配ができない異なる生物からの遺伝子を利用したのが「遺伝子組換え技術」です。1996 年には、除草剤に対する抵抗性に関する遺伝子を導入したトウモロコシ、ダイズが米国で商業栽培されるようになりました。これにより雑草の効果的な駆除が可能となったのです。(3*)

・「ゲノム編集」
近年最も注目されている技術としてゲノム編集があります。目標とする遺伝子をピンポイントで改変して作物がもともと持っている特性を改良する品種改良技術です。特定の遺伝子の特定の塩基配列部位を精度良く切断することができる人工の酵素が開発され、ゲノム上の狙った部位を変異できるようになりました。農作物の育種に応用することにより、短期間に画期的な新品種が開発できることが期待されています。(2*)現在注目されている酵素としては、2012年に論文発表された「CRISPER/Cas9」(クリスパー・キャス9)などがあります。(4*)

資料:
1) 鵜飼保雄・大澤良「品種改良の世界史・作物編」
2) 新たな育種技術研究会「ゲノム編集技術等の新たな育種技術(NPBT)を用いた農作物の開発・実用化に向けて」
3) 吉備国際大学地域創成農学部 谷坂隆俊「変異創成技術の歩み」 作物研究. 61:57-62(2016)
4) 「CRISPR-Cas9の構造と機能」西増 弘志

 

【ゲノムクイズ】
1問:交雑育種が発展したのは、次のどの時期以降でしょう?
(ア)1865年のメンデルの法則発見以降
(イ)1900年のメンデル法則の再発見以降
(ウ)1953年のDNAの構造解明以降

2問:1953年、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって提唱されたDNAのモデルは、どんな形をしたモデルだったでしょう?

3問:1996 年に米国で、除草剤耐性の特性をもった、ある2つの遺伝子組み換え作物の栽培が始まりました。さて、その作物とは何と何だったでしょう?

答えはこちら

クイズ監修:クイズ作家 古川洋平氏(ふるかわ ようへい)
1983年宮城県生まれ。仙台一高クイズ研究部時代の2000年『パネルクイズアタック25』の高校生大会で優勝。翌2001年には『タイムショック21』高校生大会にも優勝し、高校生でクイズ番組2冠を成し遂げた。その後、立命館大学クイズ研究会に所属。学生日本一決定戦『abc』3連覇、社会人日本一決定戦『ABC』2度優勝などの成績を収める。2014年より「クイズ法人 カプリティオ」代表を務め、クイズ作家として活躍している。映画『ドラえもん のび太の宝島』問題監修および出演、TV番組 TBS『水曜日のダウンタウン』、NHK『マサカメTV』、テレビ東京『乃木坂って、どこ?』など出演多数。

 

 

 

 

【ゲノムクイズ答え】
答え1: (イ)
答え2: 二重らせん(モデル)
答え3: ダイズとトウモロコシ

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