「食べ物とゲノムの秘密」<第二回:品種改良の技術>

<第二回:品種改良の技術>

普段当たり前に食べている穀物・野菜・果物は、すべて人間が野生種や原種に手を加えることでできたものです。現在食べている農産物に人間が手を加えていないものはありません。それを品種改良といいます。

食料供給における品種改良の役割を知り、どのような技術があり、どのように発展してきたのか?について考えていくと、そこには、食べ物と遺伝子(ゲノム)の関係が見えてきます。
第1回目は「食料供給と品種改良の役割」を見てきましたが、2回目は「品種改良の技術」について詳しくみていくことにしましょう。最終回である3回目は「品種改良の歴史」をご紹介していきます。各回の最後にゲノムクイズを掲載しています。全て解ければあなたもゲノムマイスターです!

第一回目の答えは次の通りでした。

【第一回ゲノムクイズ答え】
答え1: 単位面積あたり収量
答え2: メンデルの法則
答え3: (イ)

 

 

こんなに違いがある!野生の植物と現在の作物

テオシント写真提供:国立科学博物館

 

皆さんはトウモロコシの野生種がどんな姿だったのかご存じでしょうか?まずはこの写真をごらんください。トウモロコシの原種であるテオシントです。
大きさは手の平に乗るくらいです。―現在のトウモロコシとはずいぶん違っていることに驚かれたのではないでしょうか。

 

現在の野菜・穀物・果物はすべて品種改良で作ってきた

 

現在私たちが食べている野菜・穀物・果物はほぼ品種改良によって作られたものであり、人間に都合の良いように、大きさ、味や食感、含まれる栄養素などが改良されています。

例えば、スーパーマーケットの野菜売り場に行くと、さまざまな種類のトマトが並んでいます。トマトにはおよそ3万5千の遺伝子がありますが、そのうちの数千以上もの遺伝子の変異を利用することにより、色、大きさ、形、味などが改良された多様な品種が作り出されているのです。このような見た目や味などで感じることができるメリットは、私たち消費者にとってもわかりやすいものです。(1*)

一方で、作物を作る生産者のメリットのための品種改良もあります。
例えばブロッコリーは、季節を問わずいつでも食べられます。「一年中いつでも食べられる」ことは消費者のメリットですが、同時に「年間を通して作物を作れる」ということは生産者のメリットでもあります。これは、見た目は、ほぼ同じでありながら栽培時期が異なる多様な品種があるおかげです。

ではこうした作物は具体的にどのような技術を使って生み出されたのかみていきましょう。

 

品種改良はどれも「ゲノムを変える」技術

 

品種改良の技術の代表的なものとして、交雑育種、突然変異育種、ゲノム編集、遺伝子組換えの4つをここでは紹介しましょう。

交雑育種は、昔から行われている品種改良の基本です。遺伝子の組み合わせの異なる交配できる品種同士を人の手で掛け合わせることによって、ゲノムをシャッフルして新しい組合せに期待するというものです。交雑育種によって生まれた雑種のうち目的とするものに近いものを選び、それらをさらに掛け合わせて世代を繰り返し、目的とする性質を持つ品種を選抜します。

例えば、甘いが病気に弱いトマトと甘くないけど病気に強いトマトの掛け合わせ。病気に強くて甘い、という目的とする性質だけが残るまで交配を繰り返して、理想のトマト品種を作ります。
現在食している穀物、野菜、果物のほとんどは「交雑」による品種改良です。

 

 

突然変異育種は、放射線を照射したり、薬剤で処理をすることで、DNAの配列せを切断し、それが自己修復する際に偶然生じる変化を利用します。これによって、人間にとって得好ましくない性質をもたらす遺伝子の機能を失わせたり、好ましい遺伝子へと変化させたりします。
この技術で開発された作物としては現在、冷めても硬くならないコメや風味の良いダイズなどがあります。

 

 

ゲノム編集は、もともとは微生物がもっているタンパク質(例:Cas9)をハサミのような役割として用いて、変異を起こしたい部分だけを狙って切断するなど、もともと持っている単一の遺伝子が関わる特性をピンポイントに改良できる技術です。
栄養価の高いトマトや収量が多いイネなどが、現在実用化に向けて研究が進められています。

 

 

突然変異育種とゲノム編集はどちらも単一のゲノムの特性を改良するものです。突然変異育種はDNAの配列を切断して特性を変えるのに対してゲノム編集は、ある遺伝子の特性をピンポイントで変えることができ、偶然性に頼っていた変異をより確実に効率的に作り出すことを可能にしました。

遺伝子組換えは、他の生物から有用な遺伝子を導入する技術です。アグロバクテリウムという土壌微生物は植物に感染し自分が持っている遺伝子を植物のゲノムに組み込む能力を持っています。このアグロバクテリウムがもともと持っている遺伝子組換え能力を利用する方法が最も一般的です。

遺伝子組換えでは、交配できない種の異なる他の生物の遺伝子を組み込むことができるため、従来の育種技術では不可能だった特性も取り込むことができます。
代表的な作物としては、害虫に強いトウモロコシや雑草を防除しやすいダイズなどがあります。

 

 

これらの品種改良技術は、目的に応じてそれぞれの強みを生かしながら、より確実で効率的な作物の改良に役立てられています。

それぞれの技術の仕組みは異なっていますが、昔からある交雑育種から現在の遺伝子組換えやゲノム編集に至るまで「ゲノム(遺伝子)を変えて作物の性質を改良する」という点では同じなのです。(3*)

 

お米は、品種改良技術の集大成

 

このように、交雑育種・突然変異育種・ゲノム編集・遺伝子組換えの技術は、それぞれの特徴を生かして新たな作物を生み出してきました。その中でも、私たち日本人にもっともなじみ深いお米、つまりイネの品種改良には、主要な4つの技術がすべて投入され、各技術の特性を生かし、今もなお新しい品種を作り出す取り組みが行われています。

最終回は、人類の農耕が始まって以来、今日まで発展してきた「品種改良の歴史」について、時系列でみていくことにしましょう。

 

資料:
1) NPO法人くらしとバイオプラザ21「くらしとバイオニュース」(2015.7.17)「知ってる?育種の最先端」筑波大学 大澤良
2) NPO法人くらしとバイオプラザ21「私たちのそして世界の食生活を支える育種技術」~未来への可能性を秘めた新旧技術~
3) 筑波大学 生命環境系 大澤良「育種の視点から農業と環境を考える」~育種の歴史に見るNew Plant Breeding Technology(NBT)と遺伝子組換え技術~

 

【ゲノムクイズ】

1問:品種改良における「突然変異育種」と「ゲノム編集」の技術のしくみについて、正しく説明しているのはどれでしょう?
(ア)「突然変異育種」はピンポイントにゲノムを切断する
(イ)「ゲノム編集」はランダムにゲノムを傷つける
(ウ)「突然変異育種」も「ゲノム編集」も自己修復する際にゲノムを変異させる
2問:品種改良のうち「遺伝子組み換え」が持つ強みはどれでしょう?
(ア)交配できない、種の異なる他の生物の遺伝子を組み込むことができる
(イ)微生物の持つタンパク質をハサミとして用いることができる
(ウ)もともとある遺伝子の特性をピンポイントで変えることができる
3問:「交雑育種」、「突然変異育種」、「ゲノム編集」、「遺伝子組換え」の中で、遺伝子(ゲノム)を変化させる品種改良をすべて選びなさい。

答えはこちら

クイズ監修:クイズ作家 古川洋平氏(ふるかわ ようへい)
1983年宮城県生まれ。仙台一高クイズ研究部時代の2000年『パネルクイズアタック25』の高校生大会で優勝。翌2001年には『タイムショック21』高校生大会にも優勝し、高校生でクイズ番組2冠を成し遂げた。その後、立命館大学クイズ研究会に所属。学生日本一決定戦『abc』3連覇、社会人日本一決定戦『ABC』2度優勝などの成績を収める。2014年より「クイズ法人 カプリティオ」代表を務め、クイズ作家として活躍している。映画『ドラえもん のび太の宝島』問題監修および出演、TV番組 TBS『水曜日のダウンタウン』、NHK『マサカメTV』、テレビ東京『乃木坂って、どこ?』など出演多数。

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